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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(オ)366号 判決 1984年9月06日

上告人

竹田ミトリ

上告人

中村光伸

右両名訴訟代理人

高田新太郎

高坂隆信

被上告人

鈴木カズ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人高田新太郎、同高坂隆信の上告理由について

施行者が仮換地を指定するに際しあらかじめ土地区画整理審議会の意見を聞く手続をとらなかつたとしても、それだけで右仮換地の指定が当然に無効となるものではないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき、又は原判決の結論に影響しない点をとらえて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(矢口洪一 藤﨑萬里 谷口正孝 和田誠一 角田禮次郎)

上告代理人高田新太郎、同高坂隆信の上告理由

一 土地区画整理法第九八条三項は、仮換地指定処分をしようとする場合には、土地区画整理事業の施行者は、あらかじめその指定について、土地区画整理審議会の意見を聞かなければならない旨規定している。本件土地区画整理事業の施行者渋川市は、被上告人に対し、昭和四〇年一〇月二日仮換地指定をなすにつき、あらかじめ土地区画整理審議会への諮問手続を採らなかつたものであり、被上告人に対する右仮換地指定処分は無効と解すべきである。

ところが、原判決は、その理由一項3において、土地区画整理法第九八条三項があらかじめ土地区画整理審議会の意見を聞かなければならないと定めた目的は、「仮換地処分をなすについて、その内容を妥当ならしめるための手続としてこれを要求したものであるが、仮換地処分は、土地区画整理全体の手続の中で複数の土地につき相互に関連しながらなされるものであることを考えれば、たまたまある仮換地処分につき右手続が欠けていたとしても、それだけで当該処分が当然に無効となるものと解することはできない。」

と説示し、

「本件において、施行者たる渋川市が被控訴人(被上告人)に対する本件仮換地処分について、あらかじめ土地区画整理審議会の意見を聞いたとの事実は、これを認めるに足りる証拠はない。」と認定しながら、「被控訴人(被上告人)に対する本件仮換地指定については、爾後ではあるが昭和四一年五月二八日に渋川市から、「一街区」の他の仮換地とともに土地区画整理審議会に諮問手続がなされ、同日付で答申がなされていることが認められるから、利害関係人の利益保護に欠くところはないというべきであつて、本件仮換地指定を当然無効とすべきものではない。」

として、上告人らの控訴を棄却した。

二 しかし、右は土地区画整理法第九八条三項の解釈を誤まつたものである。

行政処分をするについて審議会等に対する諮問を経べきことが法律上定められている場合に、この手続を欠いてなされた行為の効力については、一般に次のように解釈されている。

即ち、その意見を聞くことが、利害関係者の保護のために必要とされる場合、あるいは諮問されるべき機関がその事項について直接の利害関係を有する場合には、その手続を経ることが有効要件となり、これを欠く行為は無効となるが、単に行政行為の内容を適当ならしめるための諮問に止まる場合には取消の原因となり得るに過ぎないとされている。

ところで、土地区画整理審議会は、施行主体と施行地区内の土地について権利を有する者との間に直接の関連がないので、施行にあたり重要な事項についての処分を行なう場合に、その処分についてこれら権利者の意見を反映させ、その権利の保護に欠けることのないようにするために設けられたものである。

そして、土地区画整理委員会の委員は、施行地区内の土地所有者及び借地権者から選挙されるのであつて、仮換地指定処分等についてはいずれも直接の利害関係を有する者である。このような直接の利害関係者から成る委員会は、それ自体仮換地指定処分等について直接の利害関係を有するものというべきである。仮換地指定処分をなすにあたり、あらかじめ土地区画整理審議会に諮問すべきものとされた理由は、仮換地指定処分が施行地区内の土地権利者の権利利益に重大な影響を与えることを考慮し、いわばその代表者の意見を参酌しようとしたものであつて、正に利害関係人の保護のために要求される諮問と言うべきである。

以上のとおり、土地区画整理審議会は施行地区内の権利者の意見を整理事業の施行に反映させるための唯一の機関であるから、法の規定に違反し、あらかじめ土地区画整理審議会に対する諮問手続を採らずになされた被上告人に対する仮換地指定処分は、明白かつ重大な瑕疵があるものとして当為ママ無効と解すべきである。

三 これに対し、原判決は前記のとおり仮換地指定処分をなすにつき土地区画整理審議会の意見を聞くべき旨の規定は、「仮換地処分をなすについて、その内容を妥当ならしめるための手続としてこれを要求したもの」と説示するが、これは右に述べた仮換地指定処分が土地権利者に与える影響の重大性および土地区画整理審議会の役割の重要性を看過したものであつて、解釈を誤まつたものと言うべきである。

また、原判決が「仮換地処分は、土地区画整理全体の手続の中で複数の土地につき相互に関連しながらなされるものであることを考えれば、たまたまある仮換地処分につき右手続が欠けていたとしても、それだけで当該処分が当然に無効となるものと解することはできない。」というのも誤りである。

第一に、仮換地処分が土地区画整理全体の手続の中で複数の土地につき相互に関連しながらなされるものであることは、土地区画整理審議会の諮問を欠く仮換地処分を有効にする理由たり得ない。むしろ、相互に関連しながらなされるものであるからこそ、あらかじめ審議会の諮問手続を採る心要性がより一層強いといえるのである。

第二に、「たまたまある仮換地処分につき右手続が欠けていたとしても」との説示も本件にはあてはまらない。

本来仮換地処分は、相互の矛盾をなくし、公平をはかるため、施行地域内の仮換地の位置、形状、面積が確定してから、一括して土地区画整理審議会に諮問され、その答申を経て一斉に行なわれるべきものである。ところが本件土地区画整理事業においては、これらの要請が全く無視され、同一施行地区内でありながら、土地区画整理審議会への諮問および仮換地指定処分が別異の時期に行なわれているのであつて、その手続は全体として極めて杜撰であつたことが明らかである。

次に、原判決は、被上告人に対する仮換地指定については、爾後ではあるが土地区画整理審議会に諮問手続がなされ、答申がなされているから利害関係人の保護に欠くところはなく、本件仮換地指定を当然無効とすべきものではないと説示する。

しかし、爾後に審議会への諮問手続をとればよいとの考えは、「あらかじめ」土地区画整理審議会の意見を聞かなければならないと定めた土地区画整理法第九八条三項の明文に違反する。

のみならず本件土地区画整理事業においては、施行者渋川市が法令に定められた手続を遵守せず土地区画整理審議会への諮問手続も恣意的、便宜的になされたため、上告人らと被上告人間の係争のみならず、施行区域全域にわたつて数多くの紛争を生じているのであつて(乙第一七号証)、原判決の説示は、施行者渋川市の行為を是認し、ひいては行政手続軽視、土地区画整理審議会に対する諮問手続の恣意的運用を助長しかねないものであつて、容認できない。

よつて、あらかじめ土地区画整理審議会の諮問手続を経たうえで仮換地指定がなされるべきであり、被上告人が本件土地について使用収益権を取得するためには、施行者渋川市において改めて如るべき行政処分を必要とすると解すべきである。

以上のとおり原判決には土地区画整理法第九八条三項の規定の解釈に誤まりがあり右誤まりは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

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